2010年に初開催され、大規模レースとしての評価を、アラブ首長国連邦の急成長のように、急速に知名度を上げてきた大会である。今年で3回目を迎え、2012 Abu Dhabi International Triathlonが、スイム3キロ、バイク200キロ、ラン20キロというディスタンスで、今週末の3月3日に開催される。
2010年の第1回レースが開催されてから、毎年出場人口が増え続け、プロカテゴリーのトップ層の厚い出場選手に加え、大変盛り上がっている国際大会である。今年も多数のトッププロ達が、ここへの招待状を受け取り、ローカルな大会だが、中東選手権大会と言っていい程、多額な賞金総額2千万円をかけて、シーズンオープナーとしてこのレースを選ぶプロやエイジグルーパー達が、アジア、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパ圏から、この場所へ集まってくる。
プロの男子と女子は、世界選手権トップ10入りする様なレベルの選手が多数出場する。
プロ男子
今回、プロ男子のラインナップは、プロ選手が30人程出場することが決定している中、2011年Ironman Hawaii世界選手権にて、トップ10に入ってる選手が、3人程いるので相当競争率の激しい戦いになりそうだ。
まずは、去年2011年のAbu Dhabi Triathlon優勝者のベルギー代表Frederik Van Lierde(フレドリック・バン・リエルデ)もディフェンディング王者として出場をすることが決定。去年、Craig Alexanderがアイアンマンハワイ記録を更新するまでは、15年間記録保持者だった伝説のLuc Van Lierdeを兄に持ち、同じDNAが流れていることで、毎年どのレースでも優勝候補として外すことはできない選手だ。2011年はIronman Franceで優勝しており、3種目とも総合的に、強い選手であり、今年はバイクスポンサーであるCerveloから、あの新しいCervelo P5を初披露し登場してくれるに間違いないだろう。そして、最高峰のバイク自体の真の力を、彼の身体能力で存分に発揮し、更なる強さを証明してくれるだろう。
2010年のAbu Dhabi Triathlon初代優勝者で、2008年ランナーアップでハワイ世界選手権2位でフィニッシュした経験がある、スペイン代表のEneko Llanos(エノコ・ヤノス)選手も注目だ。2011年のIronman TexasやIronman Arizonaで優勝をする中、上向きな好調さを見せていたが、10月のハワイ世界選手権では、体調不良でリタイアに追い込まれてしまった。毎年、Ironman TexasやAbu Dhabi Triathlon等の、気温や湿度が高い場所で実力を出せる、熱さにかなり強い選手であることもわかる。バイクパートが特に強みであり、彼のアグレッシブなポジションでバイクを乗りこなす姿は、かなり必見だ。そして、その後のランも我慢強い軽快な走りを見せてくれるので、優勝候補の一人でもある。
2011年アイアンマンハワイ世界選手権4位に入賞し、元北京オリンピック選手で、ルクセンブルグ代表のDirk Bockel(ダーク・ボッケル)も出場し、ハワイでの実力をこのAbu Dhabi Triathlonで見せつける。今年から、初のトライアスリートとして、サイクリングチームTeam Trek Leopardの一員として、バイクは、トップサイクリストと一緒に練習を積み重ねているようだ。大柄な選手でランで多少の弱みがあるが、オリンピックディスタンスならではのスピード力をこのフィールドで生かし、優勝まで突き走ってもらいたい。
2週間前のIronman 70.3 PanamaでのGOT LANCED(ランスに負ける)事件から、立ち直るかの様に、今年初めてAbu Dhabi Triathlonの出場を決めた一人であり、トライアスリート界最速バイクライダーで、アイアンマンや70.3レースの優勝経験が豊富なアメリカ代表のChris Lieto(クリス・リエト)選手も注目だ。今回、バイクの距離が200キロで通常のロングディスタンスより長いため、いつも通りの戦略で、最速サイクリストとして、今回バイクパートでどこまで後続を引き離せるかが、Lietoの勝敗を分けるだろう。いつもランで落ちてしまい、熱さにかなり弱い選手なので、優勝は難しいという予想もあるが、バイクで引き離した後続との時間差によっては、優勝もあり得るだろう。
Ironman Hawaii世界選手権では、常にトップ10候補にあげられ、ヨーロッパ圏のローカルレースや2009年のIronman Lake Placidにて優勝経歴がある、元トライアスロンチームCommerzbankのドイツ代表Maik Twelseik(マイク・トゥエルセック)も外せない存在だ。バイクパートを強みと持ち、2011年のアイアンマンコーデアリーンやセイントジョージのレースでは、バイクフィニッシュまでトップを引っ張る中、ラン中盤で、Craig AlexanderやMathaius Hecktに抜かされ2位で終わるシーズンを送っていた。今回、ヨーロピアン特有のバイク強さを見せてもらい、ランでの粘りが彼の勝負所だ。
2003年に24歳という若さで、アイアンマンハワイ世界選手権で5位に入賞し、それから期待の若手として注目を浴びたが、その後思うような結果が出せずに伸び悩んでいたオーストラリア代表のLuke Bell(ルーク・ベル)も出場。70.3レースを得意とし、数々の優勝を重ねて来ているが、アイアンマンディスタンスでは、思ったようなパフォーマンスを送れていなかった。だが、現在ベテランの域に入ってきており、毎回出場するレースでは常にトップ5候補として挙げられる。どの大会でも入賞する強い選手であるが、このAbu Dhabi大会で、今シーズンのため、どれだけ仕上げてきているかが見所である。
先日のIronman 70.3Panamaでは、ランスの波に飲まれ、4位でフィニッシュした不甲斐なさが残る中、オリンピック出場経験もあるトップクラスのトライアスリートとして、数少ないデンマーク代表Raumus Henning(ラスマス・ヘニング)も出場。長身な選手であるため、長距離のランで遅れを見せてしまうが、オリンピックやHy-Veeトライアスロンで証明したスピードスターとしてのポテンシャルも持っている。気候の熱さ常に弱点でもあるので、Abu Dhabi大会では、自身の持つスピード力と水分補給等の戦略がうまく運ぶことができれば、勝利の可能性もありだ。
この大会が2010年に初開催される関して、Abu Dhabi Triathlon Teamが発足されたわけだが、そのトライアスロンプロチームから、2005年Ironman Hawaii世界王者で、先週のIM70.3スリランカにて優勝したドイツ代表でアラブの血を引くFaris Al-Saltan(ファリス・アルサルタン)と、Chris McComackの長年のトレーニングパートナーであり、オーストラリア代表のPaul Ambrose(ポール・アンブローズ)も出場する。ある意味ワイルドカード的な存在だが、両選手とも実力を持ち、この強豪フィールドに更なる競争力を上げてくれる選手だ。
そして、元Abu Dhabi Triathlon Teamであった、ドイツ代表Andi Bocherer(アンディ・ボッシャアー)が、2011年のアイアンマンや70.3レースにて優勝を上げ実力を見せ始めてき、Ironman Hawaii世界選手権では8位に入賞し、Ironman 70.3 ヨーロッパ選手権では優勝をする等、今回のAbu Dhabi大会も優勝を影から狙う選手だろう。3種目ともバランス良く、自分ペースを大事にし、攻めれる所で追い上げのが特徴であり、毎回70.3レースで見せるランのスピードも注目だ。
そして、このプロカテゴリーでも、2人の若手も優勝に近い存在であり、特にJames CunnamaとClayton Fettelが、特に要注意だ。
南アフリカ代表のJames Cunnama(ジェームス・カナマ)は、2010年のIronman FloridaとRevolution 3 Cedar Point(アイアンマンディスタンス)にて、優勝を飾っており、2011年はハワイで注目の新人となる予定だった。だが、怪我に犯されてしまい、思ったようなシーズンを送れずにいたことで、2011年のハワイ世界選手権への出場の切符は持っていたが、ハワイで優勝することが一番の目的だという強い意志で、あえて欠場を決め、今年2012年のシーズンにかけることにした選手の一人だ。スイムで多少の弱みはあるが、前方の選手まで追い上げる力のあるバイクと、一番の強みであるランは、他のランを強みとするCraig AlexanderやPete Jacobsに通用する力を持っているので、彼のランパートでの追い上げにかなり注目だ。
そして、オーストラリア代表で新人のClayton Fettel(クレイトン・フェテル)も見逃せない存在である。数週間後のアイアンマン・メルボルンへの出場を決定しており、ハワイ出場に向けて今年相当力の入れている選手である。去年12月のアイアンマン・西オーストラリアでは、スイムとバイクでずっとトップを引き、最終的に2位でフィニッシュした経歴もある。今回、Abu Dhabi大会でも、スイムトップで上がってくることを狙い、200キロのバイクパートで引き離しにかかるだろう。そして、ランにて優勝の明暗をわける結果になると思われる。
アメリカ代表のAndrew Starykowicz(アンドリュー・スタコウィッチ)も危険な選手の一人だ。バイクの速さに絶対なる自信を持っており、スイムもトップスイマー並みの速さで、同じようなタイプの選手であるClayton Fettelと上がってきて、その後バイクでの駆け引きが前半で見れるかもしれない。
プロ女子
男子同様、女子も強豪プロが並ぶ中、熱い接戦が繰り広げられるだろう。2連覇しているイギリス代表で、Ironman Hawaiiバイクコースレコード保持者のJulie Dibensは、去年のアイアンマンハワイと70.3の世界選手権の両方で、足の怪我が悪化しリタイアに終わってしまい、現在療養中であるが、Abu Dhabi大会には親善大使として、今年はレース観戦に訪れている。
この女子フィールドで一番注目しされるのが、トライアスロン界では、まだ新人であるが、元トラックランニング出身でオリンピックを目指していた、2011年に著しいプロデビューを飾ったオーストラリア代表のMellisa Rollison(メリッサ・ロリソン)が注目だ。2011年アイアンマン70.3世界選手権ラスベガスとアイアンマン70.3プーケットアジア選手権で、2つのタイトルを獲得し、2011年Noosa Triathlonのオリンピックディスタンスで後方と大きな差を開き優勝していることから、一番の優勝候補に挙げられている。ランニング出身ということだが、バイクもスペシャライズドをスポンサーに迎えつつ、成長過程にありながら、他のプロ選手に負けないくらいの速さを持っている。Craig Alexanderのようなタイプで、3種目共バランスが良い中で、特にランで異常な速さを持ち合わせている。初のロングディスタンスということで、200キロのバイク終了時まで、バイクが強い先頭の選手にどれだけ付いていけるかが、優勝の分かれ目になるだろう。
2011年シーズンは、途中足の怪我にも悩まさせられながらも、数々のアイアンマンや70.3レースにて優勝を飾ってきたが、ハワイの世界選手権で5位で入賞したスイス代表Caroline Steffen(キャロライン・ステフェン)”Swiss Miss”も強豪の一人だ。やはり、バイクを強みで持っており、今回は唯一あのCervelo P5で登場し、他の選手を圧倒するパフォーマンスを見せてくれるだろう。そして、Chrissie Wellingtonが休息に入ったことで、今年のハワイで優勝するために、現在最高のコンディションだと豪語しているので、今回のAbu Dhabi大会では、期待の優勝候補である。
2011年アイアンマンハワイ世界選手権にて、3位で入賞し、その後すぐアイアンマンアリゾナにてアイアンマン初優勝飾り、今シーズン右肩上がりのイギリス代表Leanda Caveも要注意だ。アイアンマン70.3パナマでは、思うようなパフォーマンスができず、3位に終わってしまったが、去年のAbu Dhabi大会で2位に入賞していることから、外せない選手である。スイムを特に得意とし、ステディなペースで、バイクとランで徐々に引き離し走り抜けるタイプだ。
男子プロのJames Cunnamaの彼女でありながら、Team TBBを脱退し、新しくAbu Dhabi Triathlonチームのメンバーとして、活動始めた、イギリス代表のJodie Swallow(ジョディー・スワロウ) もアイアンマン界若手の選手として大変注目の的だ。ITUオリンピックディスタンスで、ジュニアから著しい活躍を得て、2010年のアイアンマン70.3世界選手権にて、初出場で初優勝を飾った。その後、2011年は70.3レースから、アイアンマンディスタンスにチャレンジするも、長引く怪我のせいで思ったパフォーマンスができずリタイア終わることが多かった。だが、2012年の初戦であるアイアンマン70.3南アフリカにて、ようやく優勝を飾り、潜在能力を証明し続けている。スイムに関しては、男子負けないくらいの異常すぎる実力を持ち、アイアンマンレースでは、常に男子に混ざりトップ5以内であがってくることもある。粘り強いバイクでの力も見せ、ランもショートながらのスピード力で逃げ切るだろう。
2011年のアイアンマンハワイ世界選手権では、4位に入賞した、イギリス代表Rachael Joyceもアラブの血を引く一人として注目の選手である。2011年のシーズンは、ITU ロングコース世界選手権で優勝する等、著しい成長を毎年見せてくれている選手だ。小柄な体系だが、スイムを一番得意とし、バイクとランは、ペースをキープして頭の良いレース展開に持って行くのが得意な選手だ。Abu Dhabi Triathlon Teamの一員として去年までは活動していたが、今年は一人のトライアスリートとして成長していくために、CerveloやNewtonからのスポンサーのバックアップも付き、かなり気合いの入っている選手の一人だ。
現在、Gina CrawfordやSamantha Warriner等、ママさんトライアスリートが多い中で、かなりの実力を見せているのがオーストラリア代表のNikki Butterfield(ニッキ・バターフィールド)だ。夫は、バミューダ代表のオリンピック選手でトライアスリートに持ち、夫婦でプロトライアスリート生活を送っている。2011年のアイアンマン・シラキュースにて、Caroline Steffenを抑え優勝を飾り、出産後のすばらしいカムバックを果たした選手だ。元々ジュニアのITUトライアスリートで大きな活躍を見せていたが、プロサイクリストに転向していた時期もあり、バイクでの最強の強みをこのフィールドで見せてくれるだろう。
その他にも、カナダ代表でアイアンマン・セイントジョージを2連覇中で科学者のHeather Wurtele(ヘザー・ワーテリ)や、エイジから上がってきたこれからの期待の新人の一人であるイギリス代表Emma-Kate Lidbury(エマ・ケイト・リバリー)、ドイツ代表で現在実力を見せ始めてきているSilivia Felt(シルビア・フェルト)、Ironman 70.3 Panamaにて凄まじいバイクタイムを出し優勝したカナダ代表のAngela Naeth(アンジェラ・ネス)が、大きな刺激をレース中に与えてくれるだろう。そして日本からは、Emi Sakaiが唯一出場し、オフシーズン明けの絶好調さをこの強豪のフィールドで見せつけ、大きく飛躍してくれるに違いない。
予想
男子に関しては、バイクを強みとする選手が多数いる中、スイムの若干のタイム差は大きく変わらないだろうと予想される。その中で、特にバイクが速いChris LIetoが、この200キロのコースで爆走し、差をつけるいつも通りの展開に持っていくに違いない。ランが20キロということで、後方の選手にFredrik Van Lierde、Eneko LlanosやJames Cunnama、Andi Bochererが近い位置にいる場合には、このメンバーでのラン勝負になる可能性もある。だが、ここでの敵は、他のプロ選手だけではなく、異常な天候の熱さになるため、展開の予想が難しい点が多くでてくる。だが、Chris Lietoがいま一番有力な優勝候補だ。
女子は、ロングディスタンスにて未知の選手である、Mellisa Rollisonに大きな注目が置かれているが、Calorine SteffenやJodie SwallowのTeam TBB勢が脅威となると思われる。そして、ダークホースとして、Angela NaethやNikki Butterfieldのバイクパフォーマンスもかなり強豪な所だろう。だが、Mellisa Rollisonの潜在能力と成長段階のパフォーマンス力にかけたい。
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