先週のCervelo P5発表と同時くらいに、メディアやTwitterを駆け抜け、驚かされたニュースの一つは、Chrissie Wellington(クリッシー・ウェリングトン)が今シーズンのアイアンマン出場を辞退し、休息を取るという一面だった。
2007年に、トライアスロン界には、あまり知られていないダークホース(穴場的な新人優勝候補)として現れたChrissie Wellingtonだったが、あのハワイのフィールドにて他のアスリートに衝撃を残し、初優勝を勝ち取った。
それから4年半という間に、アイアンマンのレースでは、13戦不敗(1回DNS)であり、あのPaula Newby Fraser(元ハワイアイアンマン世界記録保持者、ハワイ世界大会7度優勝者)の世界ハワイコース記録を破るなど、これから次の目標として、このPaulaの7回優勝という記録を更新してくれるだろうと大変期待していた所だった。
だが、ここで浮上するクエスチョンが、なぜこの時期に休息を取り、アイアンマンレースから離れて、どういった活動をするのかだ。
ドラッグ疑惑
2010年ハワイチャンピオンシップにて、病気のため欠場した際、不法ドラッグを抜くためだとか、色々な憶測や噂がメディア上で飛び回った。2010年ハワイの世界大会前、ライター自身がランコース上のAli Driveをジョグしていると前方からキロ4分くらいのペースで走ってくる女性がいた。それは、紛れもなくChrissie Wellingtonだった。その光景を見た時は、今年も調子がいいから必ず優勝するだろうと、とても期待を持っていた。だが、翌日の朝欠場のニュースが流れた時は、一度耳を疑った。
この欠場騒ぎが流れて以後、ドーピング疑惑が浮上したが、すぐに彼女自身のドラッグテストの結果をネット上で、プロ選手になった後の2008年からいままでの記録を公開して証明している。
他のケースから考えてみれば、ツールドフランス7回総合優勝しているLance Armstrongが不法ドラッグ使用疑惑が、そこら中に散らばっている。優勝者には、着いてかかってくるジンクスなのか、ドーピング疑惑は毎年大きな問題になり、2005年には、引退として一時期サイクリング界から離れた彼だが、2009年に再度戻ってきた。このカムバックの際も、不法ドラッグの痕跡を抜くための休息だったという噂やニュースを多く呼んだ。未だに信じられないのは、1996年10月に25歳という若さで前立腺ガンが肺や脳に犯され、40%以下の生存率しかないと言われた彼の復活劇。復活後7度連続ツールドフランス総合優勝の噂の一つには、ステロイド(筋肉増強剤)等を日々取っていたことで、科学的には証明されていないが、早期の回復を助長してくれたという話もある。2011年5月には、元US Postalチームメンバーでもある、Tyler HamiltonがLanceがドーピングしている現場を1999、2000、2001年のツールドフランスの際、目撃したと暴露し、現BMCプロライダーでランスと長年チームで一緒だったGeorge HIncapie自身も目撃したことがあると証言したが、これについてもLanceは否定している。
最近では、プロサイクリング界に多かったドーピング騒ぎもトライアスロン界までに浸透してきている傾向がある。最近の出来事では、オーストリア代表で元プロマウンテンバイクライダーでオリンピック出場経験のあるMichael Weiss選手。トライアスロン界に転向後は、2010年アイアンマンSt. Georgeチャンプで、2011年アイアンマン70.3世界大会では4位に入賞し、 2011年のXterraオフロードトライアスロンのワールドチャンピオンという実力を持つ選手である。だが、2005年に、オーストリアのオリンピック選手数人があるブラッドプラズマ(血漿細胞組み替え)研究施設に行ったことで、ドーピング疑惑を課せられた。これまで5年間、その件の裁判で悩まされてきたが、2010年に無罪と一時証明された。だが、2011年12月に罪が裏返り、有罪として2年間の出場停止を受けることになってしまった。この件について自身は、クリーンであることを主張し続けてきているが、裁判上のコストや時間の無駄として上告することはやめ、この出場停止処分を受けることした。ライター自身は、彼のパフォーマンスの潜在能力や人柄の良さがとても印象的だったので、彼のドーピングはクリーンだと信じている。これからは、将来の注目選手として彼の動向を追い続け、2年後のカムバックに大変期待している。
こういう事情が多いことから、WTC(ワールド・トライアスロン・コーポレイション)は、去年のアイアンマンハワイ世界大会から、ランダムにエイジグルーパーのドラッグテスト実施とその際エイジで入賞した選手の何人かは、ドラッグテストを受けさせている傾向にもある。プロだけではなく、これからはエイジグルーパーにもこういう疑惑を持ち始めていることは、クリーンなレースに仕上げるための上向きな言動ではある。逆に、日本国内ではドーピングという記事はあまり取り上げられないニュースではあるので、世界的にみれば大きな問題に発展してきているに違いない。
精神面の休息
一番の精神的、肉体的ダメージは、やはり2011年のハワイ大会前の空白の2週間だろう。あまり公には、バイクで事故をして怪我した程度で、Twitter等にも痛々しい画像が彼女のアカウントから乗せられていた。その時は、問題ないと発言していたが、実際はそう簡単な怪我ではなかったことが、後にわかった。
それは、2011年9月25日、ハワイの世界選手権2週間前に起こった出来事だ。Chrissieのコーチであり6度ハワイ優勝者、伝説のDave Scottとその息子であり同じくハワイ出場予定だったDrew Scott等と一緒にバイクのロング練習の時、何千回も曲がっているようなコーナーをChrissieは前輪がパンクしてることに気づかず、体を横に打ち付けるようにクラッシュしてしまった。
その当時は、肩から腰、特に足の側面を削るように、怪我をしたが、レントゲンの結果骨には以上がなかったようだった。だが、事故後翌日、体中痛みと腫れで悪化していた。その時に、Dave Scottは、コーチとしてこう言った、”You’re doing the wrong thing if you try and train through this. Just let your body heal.”(もしその状態でトレーニングをしようと思うなら、それは間違ったことだ。とにかく、体を自然に回復させること。)。
これが起きる時点まで、どのシーズンよりも最高のコンディションだと豪語していたChrissieと、ここまで一緒に仕上げてきたコーチのDaveとしては、今後2週間を左右する決断を与えるのに、この期間はかなり精神的苦痛だった思える。
そして、その後、ジムにてエリプティカルトレーナーで簡単なトレーニングをしていたが、体が思うように動かず、体重をかけようとしても、痛みが走り、どうしようにも足に力が入らなかった。その後、ジムのソファーで休息をとり、コーチのDaveとプロトライアスリートでChrissieの彼氏であるTom Loweに、肩をおわれてジムを後にした。その時、すでに足が感染症にかかっており、抗生物質を取る毎日が続いた。
その後、レース10日前のコナ出発を、7日前に遅らせたが、それからハワイ到着後、バイクのテストライドは、順調に行ったが、スイムコースで4Kのテストスイム練習をした際、胸に鋭い痛みが走ったという。その後から、痛みは酷くなり、最終のスイム練習をプールで行った際、4000m泳ぐつもりだったが、1000mくらい泳いだ頃に、急に胸が苦しくなり、その痛みに耐えられなくなり、練習を中止した。その時、”felt like someone was stabbing me in the chest.”(誰かが胸を刺してるみたいな感覚だわ)と、ゴーグルの中で涙を流し、自分自身でプールから上がれず、他人の手を借りて、プールから上げてもらったという。その後すぐに、コナの病院で胸部のレントゲンを取ったが、骨には異常はなかったが、胸筋肉自体に亀裂が入ってることが判明した。
コナ到着後も、レースの前日まで、病院で抗生物質の点滴を打ち続け最大限の回復に努力してきた。そして、レース当日痛々しい傷を見せながらも、マーキングエリアには、あまり笑顔を出さず、かなり真剣で緊張した様子で登場したのがわかった。
その本当の裏側を知らなかったメディア勢、観客やサポーターは、レース始終、彼女を応援し続けた。スイムで1時間以上かかってしまったことに、優勝はだめかと思った瞬間もあった。だが、劇的なランタイムでトップまで踊り出て、4度目の優勝を勝ち取った。
幾度とスポンサーやファン、サポーターのために優勝しなければならないという、元王者として、プロとしての、プレッシャーが大きくのしかかっていたと思う。その中でこの肉体的なデメリットを精神的強さでカバーしたことは、本当のQueen Of Konaであることに間違いない。
ここ過去2年間、2010年のハワイ大会当日欠場、2011年のハワイ大会2週間前のバイク練習中の事故等から来る精神的ダメージと自分の周りで起こる噂やプレッシャーの中生きて行く中で、リカバリー(休息)を取ることもアスリートとしての精神面のコンディショニングの一環だと、コーチのDave Scottや他のサポーターやスポンサーの意見を踏まえこの結論に至ったと考える。
2012年の活動
Chrissie Wellingtonの経歴として、アイアンマン界に飛び出してくる前は、イギリスの国政に関係した仕事をしており、ボランティアとして、2004年9月から16ヶ月間ネパールの1500メートル程の高地にある都市に滞在し、色々な活動をしていたこともある。(Chrissie Wellingtonのアスリートプロファイルも次期に更新予定)
そういったボランティア精神がとてもあり、トライアスロン界でも色々な方面で、チャリティーを広げるために、第一人者として活動を行っている。
アイアンマン界で名の知れた有名なチャリティーでいうと、Blazeman Foundationというチャリティーだ。ALSという(筋肉が弱くなってきてしまう難病)の治療薬やそれを助ける研究機関の援助のために、発足されたチャリティーである。Blazemanというのは、過去にJon Blazemanというアメリカ人の男性がALSの病気が発覚した後に、アイアンマンに挑戦し、ハワイを完走したエイジグルーパーの選手だ。その後、たくさんの大会で見られるパフォーマンスだが、彼が2005年のハワイ初完走時に、フィニッシュライン手前で、寝転がってフィニッシュするシーン、これはJohn Blazemanが最初に行ったゴールパフォーマンスである。それから影響を受けた、Chrissieも含め、このJon Blazemanを支持するアスリート達が、ALSと言う病気の認知を広げるために、毎回どのレースのフィニッシュラインでもこのパフォーマンスをする選手を目にすることがある。
最近は、Iron Blazemanというのも楽曲を制作し、Chrissie Wellington、Andy Potts、Matt Reed、Leanda Cave(ベースギター)、Mirinda Carfrae、Scott Tinley、Bryan Rhodes等有名なプロトライアスリート、Def LeppardのドラマーRick AllenやSex PistolsのSteve Jonesの有名ロックバンドのメンバー達が、一緒に歌い作曲したレアな曲がITune上で発売されたこともある。
他にも、CAF Charity(子供から成人までの身体障害者アスリートを支援するためのチャリティー団体) 、Janes Appeal(イギリスのガン治療や子供のためのチャリティー支援団体)、そして過去のネパール滞在の経験を元に、Girls Education Nepal(女性中心から成り立った団体、ネパールの子供への教育サポート)にも積極的に参加しようと計画している所である。
Chrissie自身のコメントでは、レースに本格的に出場することはないが、こういうチャリティーを通して、一緒に参加することはあるだろう、そして、トライアスロンやそれに関係するイベントには参加するが、主にたくさんのアスリートと会い、スポンサーの手伝い、コメンテイター、メダルや笑顔をフィニッシュラインでアスリートに手渡すことが、いま考えている計画だそうだ。
今年の2012年5月に、A Life Without Limitsという自伝本を出すということなので、とても注目の年でもある。内容は、特に、真実、インスピレーション、勇気、モチベーション、アドバイス等を与えられる物に、仕上がっているということだ。
この本が出版された後に読破して、日本語訳の物は当然出てこないだろうと思うので、このTriWorldJapanで真実の内容を感想として明かしていきたいと思う。
情熱と精神の間
これからの深い活動内容は、明らかにされてないが、この1年間アスリート活動以外にどう過ごすのかが、とても気になる所だ。最後に、What It TakesというドキュメンタリーDVDにて、Mark Allenはこう言っていたことを思い出した。
”Big Island is like a window in your soul. you know If you are strong you’ll see that. If you have a weakness you’ll see that. And everybody has both of elements. Parts of themselves are very strong, parts of themselves that has self-doubt, get nervous, they have fear.”
「ビッグアイランド(ハワイ島)でレースをすることは、心の中にある感情(ソウル)の窓口のようなもの。というのは、強みがあればそれを知ることができるし、弱い部分があれば、それも見えてくる。そして、両方の要素をみんな持っている。自分自身のある部分は、とても強かったり、他の部分では、自身喪失になったり、緊張したり、恐怖を持つこともある。」
”Your physicality is what you get to the start line, You have to be trained. You have to do swim, bike and run. You have to do base, speed, taper and weight…But top 10, 20 or 30 guys, physically if you test them they all are within tiny percents.”
「自身の身体能力は、スタートラインについた時の物だ。トレーニングもしなければならない。スイム、バイク、そしてランもしなければならない。そして、ベース、スピードトレーニングやテイパー、ウェイトもしなければならない。でも、トップの10位、20位、または30位の選手達は、全員を肉体的にテストしたとしても、ほんの少しのパーセンテージの違いだけにしかならない。」
”Why somebody wins and somebody else doesn’t, It’s all about here (mental) and here (heart), that’s the race is about.”
「なぜ、誰かが勝って、他の誰かが勝てないのは、精神と情熱がすべてを語っており、そこがこのレースのすべてさ。」
この言葉は、まさに、Chrissie Wellingtonを象徴している表現だと深々と感じた。
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